Project Story

「住民を水害から守りたい」
地方自治体の声に応え、
国民の安心安全に役立つものを

“IoT多点観測システム”開発プロジェクト

  • マーケティング責任者

    M.A

    1985年入社

  • 営業責任者

    T.O

    1986年入社

  • プロジェクトリーダー

    T.M

    1997年入社

  • プロジェクト責任者

    K.U

    1994年入社

イントロダクション

近年、数十年に一度と想定されてきた水害がいつどこで発生してもおかしくない状況になっており、その人的および経済的被害の回避、軽減は自治体の大きな課題となっている。国土交通省の主導でこれまで水位計のなかった全国の中小河川に約8,000台の『危機管理型水位計』が整備されたが、これだけでは十分とは言えず 自治体の災害対策には流域に適した観測と地域全体の見える化が求められている。そこで我々は自治体でも導入しやすく継続的な運用が容易な “IoT多点観測システム”を開発した。

ココがポイント!


  • 省電力化とリアルタイム性の両立
  • お客様UI(見える化システム)のユーザビリティ向上
  • お客様の保守業務軽減を実現する、カスタマーセンターによる遠隔監視の構築

必要に迫られる水害対策
地方自治体の減災施策に貢献

  • 今回のプロジェクトはどのように発生したのでしょうか?

    T.M台風や豪雨による水害が毎年のように発生していること受け、国土交通省の主導で水害対策に特化した「危機管理型水位計」を設置する取組みが始まりました。我々はこの取組みに積極的に参画し約2,000台の水位計を納入しました。

    T.O確かに我々は計画の約25%の水位計を短期間でご提供したことで自治体の水害対策に貢献できたと思います。しかし、自治体の水害対策には流域に適した観測が必要でこの設置数では不十分な場合が多いのです。例えば当社事業所のある人口約16万人の秦野市に設置された危機管理型水位計は2台だけで、市防災課の職員が求める数の整備はされていません。そこで我々も地方自治体の水害対策に貢献できないかと動き始めました。DX化、スマートシティ化が推進されていることもあり、水害対策として“IoT多点観測システム”プロジェクトを立ち上げたのです。

お客様との会話を重ね
私たちだからこそできる価値ある水位計を

  • 開発にあたり重要視されたことは?

    K.UこういったIoT を使った製品やDXでというのは、どこの企業、メーカーでもやろうと思えばできるものなので、私たちが製品を投入した時に、他社と比べて価値を持たなければ価格競争に終わります。そこで、どこに価値を見出すべきかと、通常より強化してマーケティングを行いました。その結果見えてきたことは、自治体では住民を守るために小さい河川、場合によっては家の後ろを流れている用水路なども見なくてはいけないということです。しかし今、自治体は人員やコストを削減して苦労されています。そのような中で製品を導入した場合、長きにわたり正常に稼働しなければお荷物になってしまう。また購入時だけではなく、製品の維持管理にコストがかかります。

    その視点に立った時に、製品だけを作るのではなく、トータルソリューションとしてお客様の問題を解決しようと。それにはお客様が維持管理するような人的コストなどを私たちが請け負う、つまり、私たちの水位計が正常に動き続け、製品の中で監視ができることで、お客様の問題を解決できればと開発を進めました。設置するだけで手を引くのではなく、設置した後がむしろ勝負かもしれません。製品とお客様の保守業務の代行をするサービスをセットで販売。カスタマーセンターを置き、設置した機器を監視。異常があればすぐに察知して現場対応を行えるようにしました。

連続動作が当たり前のクラウドサーバ
間欠動作による省電力が求められる自然観測

  • 省電力化とリアルタイム性の両立とは?

    T.M通常クラウドを利用してデータを集める場合、常時電源が供給されていてリアルタイムに通信が行われます。開発当時、省電力でクラウドにデータを集めるシステムはほとんどなかったため省電力化に苦労しました。一般的に通信やクラウドなどは間欠動作や省電力化が馴染まない分野で、レアケースのことをやろうとしたわけです。

    M.A水位や雨量などの自然観測をする現場には商用電源がない場合が多く、太陽電池とバッテリによる無電源システムが要求されるため観測機器を間欠動作させて省電力化を図ります。一方で水害対策に利用するには、水害リスクの高い状況ではリアルタイム性が要求されますので短い周期で観測する必要があります。観測周期を短くすると、その分消費電力が増加し太陽電池とバッテリは大型なものが必要になってしまうため、動作方式を工夫し低水位時は短い周期で観測し通信は行わず、高水位時は観測も通信も短い周期で行う方式とし、省電力化が得意な観測機器は短い周期、省電力化が困難な通信とクラウドは長い周期で動作させることで適切な無電源システムとリアルタイム性を両立させたのです。

    T.M特にクラウドの開発は初めての取組みだったため技術的に分からないことが多く、専門業者の知恵を借りながら進めましたが、クラウド専門の業者さんでも間欠動作に関しては初めてのことが多く解決するために一緒に汗をかきました。

    T.O今まで社内で全て行う開発が中心でしたが、私たちが持っている技術と他社が持っている技術、これらのアライアンスを組んで集合体にすれば多分強くなるという思いがありました。

自治体が望むものを理解し解決するように
技術を持って応えていく

  • ビジネス的な見通しはどうだったのでしょうか?

    M.Aそもそもの出発点が危機管理型水位計に関する困りごとを自治体に聞いてまわり、防災に私たちの水位計の必要性を感じての開発だったので、これまでの事業とは少し違うところがあります。自治体の抱える課題に対して「IoTで解決できそうだ」というところからスタートしていますから、手探りのところはあります。

    T.Oただ、水害が頻発し人も亡くなっているという事実があり、国は水位計だけでなく、流域治水というプロジェクトも立ち上げ、河川の氾濫域を含めて水害の対策に取り組んでいます。そのような状況の中、私たちも貢献できる製品を作っていきたいですし、必要とされるものになると思っています。

    M.A秦野市との実証実験は開発に欠かせないものとなっています。「機能はいかがですか?」「こういう情報は価値ありますか?」「ほかに困っていることはありませんか?」と防災課の職員の方とやりとりし、開発にフィードバックして より価値の高いシステムを目指して改良を重ねています。そして最近では、ほかのいくつかの自治体にも導入されるようになってきました。ここ数ヶ月の間に「導入しているところから聞いた」「ホームページを見た」など、製品についての問い合わせがくるようになりました。

    K.U今まで以上に使う側の意見を伺ってものを作り上げていく、育てていくというステップが必要となってきたと感じています。

    T.M開発プロセスにおいてはアジャイル方式で取り組みました。先ほど話した実証実験を通して、防災課の職員の要望や実験で出た課題を踏まえながら、計画→設計→実装→テスト→実証実験を何回か繰り返し、徐々に自治体の望むものへと作りあげました。

水位、雨量の計測だけではなく
幅広く世の中の安全に役立てるように

  • 今後の展開をどのように考えていらっしゃいますか?

    T.Mプロジェクトは現在も進行中で、今、お客様に提供しているセンサは水位計と雨量計、カメラ画像ですが、この先は風速や気温、気圧、流速などさまざまなセンサを充実させていければと思っています。クラウドの通信回線も改良したいですね。

    T.O太陽電池のシステムではなく、商用電源が引ければ高性能のカメラで動画を撮影することも可能になり、水位計も常時監視できます。そのため、電源の供給方法も検討しています。そのほか多くのことを検討中です。災害時に人が行うには危険なことを遠隔管理することや、さまざまな危険を察知してアラームを出すなど、それぞれが実現するとかなり多くの問題に応えられるようになると思います。

    M.A現在、国や県で管理している危機管理型水位計やその他のさまざまなデータを自治体でも見られるようになっていますが、欲しい情報はそれぞれのウェブサイトを見に行く必要があります。最近では、自治体から国や県にこういう情報を提供してほしいと申し入れればデータは提供されるようになってきたので ”IoT多点観測システム”に取り入れて、自治体が欲しい情報は我々のシステムを見れば全てわかるようにしたいと考えています。自治体の職員の方の力になれることが私たちにはまだまだあると思います。

    T.O世の中の安全・安心に役立つものに皆で貢献していきたいですね。

安心して暮らせる街づくり

”IoT多点観測システム”の運用を通じて地域住民のみなさんの安全で安心な暮らしに少しでも貢献したいと考えております。そのために、導入しやすいコストで提供し、自治体職員の負担にならないように保守を代行し、また いざという時に確実に稼働するようにシステムの常時監視を実現しました。今後もお客様の声に耳を傾けシステムの改善を継続し、より付加価値の高いシステムに進展させながら全国の自治体の災害対策に貢献していきたいと思います。